毛糸の織物・キリム(セルビア語では「チリム」)は、トルコなどの中東からバルカン地域へと伝わった。
模様の美しさからセルビアではタペストリーやベッドカバーとして利用されてきた。
最近は結婚のお祝いとして注文されることが多い。
セルビア南部の町ピロトはバルカン山脈の麓にあり、昔から牧畜が盛んで羊毛の質も高い。
その毛糸を用い時間を掛けてカラフル且つ複雑な模様に織られたピロト キリムは、セルビアブランドの一つである。
今回は、ピロトにある”Damsko Srce Pirot”(ダムスコ スルツェ ピロト=レディース ハート ピロト)工房を訪ねた。
忍耐と高い技術が要求されるキリム職人
工房には計10名の女性職人が在職している。
職人になるには最低でも5年を要するとのこと。
しかし若い人は5年も待つことが出来ずに辞める人が多いという。
1平方メートル織るのに掛かる時間は、8時間/日x1ヶ月。
この工房では、注文を受けてからの製作を開始する。
注文されたモチーフや色を基に織っていく。
「キリムは手と目で織るものです。なので熟練した技術が必要になります。」と責任者のスラビツァさんは話す。
「キリム職人はモチーフの場所や色によって使用糸を変えるため、数学的な知識も必要です。また長い時間座りっ放しになるので、健康でないといけませんね。」と話す。
ピロト キリムのモチーフ
キリムの模様(モチーフ・シンボル)にはそれぞれ意味がある。
家族の健康と幸せを表す亀(下)
鳥(襟鳩)は夫婦の幸せの象徴。
ピロト キリムの特徴
1.一枚で出来ている
サイズが大きくても小さくても1枚で織られている。
はぎ合わせることはしない。
2.両面織りになっている
ピロトのキリムは裏地も表と同じ模様(リバーシブル)になる。
痛んだら裏返して使えるため、片面20年x2で40年使えるとのこと。
3.羊毛のみを使用
ピロトの羊(Pramenka)から採取したウールを使用している。
このウールは強度が強いため細く紡ぐことが出来る。
細い毛糸で織るのは時間と高い技量が要されるが、このお陰でピロト キリムは破れることはない。
1枚のキリムに20色以上の毛糸を使用している。
ピロト キリムの手入れ方法
手入れは平らな所にキリムを置き、水を掛ける。(色落ちするのでお湯は×)
水を吸うと重くなるので、平らな所で乾燥させる。 だが、あまり洗濯する必要はないとのこと。
色々なモチーフが詰め込まれたキリムは外国からのオーダー
「キリムを見る時はデザインとモチーフ、配色の美しさや職人のレベルも是非確認してください。」とスラビツァさんは話す。
また、「購入した人の感想では、何故かピロトのキリムを家に置いていると、家の邪気が取り除かれてポジティブなエネルギーを感じると言うんです。」とも。
長くセルビアで受け継がれている背景やモチーフに込められた意味を思うと、そんなパワーも秘められているような気がしてくる。
http://damskosrce.com/