1. 東方正教とは
東方正教とはキリスト教会の1つです。
1054年の東西分裂で【東方正教会】と【ローマ・カトリック教会(西方正教)】に分かれ、東欧を中心に発展しました。
正教とは「正しい教え」を意味します。
東方正教会 | ローマ・カトリック | プロテスタント | |
---|---|---|---|
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信者数 | 約2億人 | 約10億人 | 約4.5億人 |
最高位 | 総主教 | ローマ法王 | – |
特徴の一例 | 聖画像崇敬だが立体の聖像は無い | 教会中心、神父は神の代理 | 聖書中心、偶像崇拝禁止 |
中心となるもの | 聖書と聖伝 | 教会 | 聖書 |
信者の多い国 | ロシア、東欧、ギリシャ | イタリア、フランス スペイン、ポルトガル | アメリカ、ドイツ、イギリス |
東方正教・大聖堂
修道院

セルビアには200を超える正教会の修道院があり、中世期に盛んに建てられました。
中には1100年代に建てられた古いものも残されています。
その歴史や現在も残るフレスコ画が評価され、世界遺産に指定されている修道院もあります。

2. 洗礼
正教徒の洗礼は、生後3~10カ月に受けることが多いです。
それは “子供は罪を犯さずに生まれ、子供に洗礼を施すことは罪からの保護を確立する”という理由からです。
大まかな流れは、下記の通りです。
- 司祭は祝福と共に、子供を抱きかかえ聖水に3回(三位一体=父・子・精霊) 浸す。
聖水を含ませたブラシ等で子供をなぞることもあります。(動画) - 司祭は子供の髪を少量切り取り、蜜蝋に保管します。
- 司祭が子供に聖油を塗ります。(耳-聞く、目-見る、鼻-匂いを嗅ぐ、手-触る、足-歩く、心-命、背-力)
キャンドルはキリストの光を表し、洗礼式の間灯されます。
3. セルビア正教の結婚式
セルビア正教徒の挙式は、厳かな儀式を行います。
しかし、セルビアでは正教徒でも「通常のシンプルな式」を希望する人も多く、この場合は教会式は行わず、区役所で婚姻を行います。
ここでは、【正統派のセルビア正教徒の挙式】について解説します。
挙式の流れ

司祭は新郎新婦に蜜蝋で出来たろうそくを渡します。
キャンドルはキリストの光を表します。

祝福の祈りと共に、司祭から指輪を与えられます。
*指輪は右手の薬指にはめます。(後述)
クム(後述)の前で新郎新婦は、指輪を3回交換します。(三位一体)

祭壇の前で司祭は新郎新婦の右手を合わせてブライダル クロスで結びます。
これは夫婦になる者の「一体性」と「精神的な絆」を表します。

戴冠式は東方正教会の主要なパートです。
司祭は新郎、そして新婦の頭に冠をかぶせます。

新郎新婦は1杯のワインを互いに共有して飲みます。聖三位一体を表すためにそれぞれ 3 口飲みます。
これは「これから2人が共に新しい生活を始める」ことを象徴しています。

最後に祭壇の周囲を3回歩きます。
この円形を歩くことは「永遠」を象徴します。
Image: Svadba Irene i Darka(https://youtu.be/Tc_zzPzevMc)よりキャプチャ
指輪を右手につける理由
正教会では「神の右手は地盤を築く」と語られており、正教徒は指輪を右手につけることにより「神から見守られる・加護を受ける」という解釈です。
正教徒のゴッドファーザー “クム(kumu)” “クマ(kuma)”
クム (男性、女性はクマ) はゴッドファーザーやベストマンと訳されます。
クム は夫婦やその子供たちの“宗教(霊)的な生活”において重要な役割を果たします。
クムには2つの大きな役目があります。
- 正教会の挙式でクム(クマ)を務める。
クムは2人の婚姻の証人とみなされます。 - 子供の名付け親となる。
夫婦の結婚式でクムを務めた人が、その夫婦の将来の子供たちの信仰の親と扱われます。
(最近は夫婦が希望する名前を予めクムに伝えていることが多い)
クム・クマは、正教会の信徒でなければなりません。
夫婦とクムの絆は、本質的に精神的なもので最高の敬意を意味します。
多くの場合において家族以上の繋がりを持つものとなるため、夫婦はクム・クマを慎重に選びます。
異教徒と結婚は出来るの?
セルビア正教徒と他宗教の人の婚姻は可能です。
改宗の要・不要については教会・管轄の区役所でご確認ください。
教会・区役所にて必ずご確認ください
- 教会式を挙げる場合→「正教徒でないといけない=改宗が必要」な場合がある
(2020年の情報では不要とも書いてあります) - 区役所のみで婚姻を行う→「改宗は不要」
- クム/クマは注意!
例えば日本人が教会挙式で「クム」を依頼された場合「正教徒への改宗が必要」になるのでご注意ください。
婚姻後の姓は?
女性は殆どの場合、夫の姓に変わります。(男性は殆ど変わりません)
若しくは、両方の姓を保持(名前+ Markovic Pavlovic など)、又は 姓を変更しないという選択も出来ます。
セルビア人の名前に【ビッチ】が多い理由

4. スラヴァ(スラバ)

セルビア正教では、毎年 守護聖人を敬って祝う「スラヴァ(Slava)」という日があります。
すべての信者の家族には守護聖人がいて、年に1度スラバを祝います。
正教会には20以上の聖人が存在しますが、スラヴァの行われる日にちは守護聖人により異なります。
主なスラヴァ
守護聖人 | スラバ | 守護対象 |
---|---|---|
聖ニコラ (Sveti Nikola Cudotvorac) | 12月19日 | 旅行者、船員、漁師の守護聖人 ※セルビアで最も多い |
殉教者ジョルジェ (Djurdjev dan) | 5月6日 | この日は夏の始まりと考えられている 家庭の健康、若者の結婚、家畜、豊作を願う |
洗礼者聖ヨハネ (Sveti Jovan Krstitelj) | 1月20日 | 囚人、患者、音楽家、仕立て屋など |
聖ディミトリ (Sveti Dimitrije / Mitrovdan) | 11月8日 | この日は冬が始まる日として知られている *この時期までにすべての農業を終了させます |
大天使・聖ミカエル (Arandjelovdan) | 11月21日 | 正統派の信仰の守護者であり、異端に対する闘士 * この日の天候がその年の冬-春を決定すると言われている |
聖サヴァ (Sveti Sava) | 1月27日 | セルビア正教会の初代大司教 学問・学童の守護聖人 |
スラヴァの祝い方

信徒はスラヴァ初日の早朝に、スラヴァ用ケーキを教会へ持参します。
司祭はケーキに十字の切り目を入れて赤ワインを注ぎ、信徒は半分を持ち帰ります。
パンは「私は命のパン」というイエスの言葉、ワインはイエスの血を象徴します。
パンは蜂蜜入りで少し甘く、蜂蜜は「永遠の命の甘さ」を象徴しています。
ろうそくは神の光を表します。

スラヴァの期間は1~2日間で 親戚や親しい友人、仕事関係者を招待して豪勢な手料理と共に祝います。
ゲストはワインや花、チョコレートなどのお菓子を持参します。

料理はスープに始まり、オードブル、サラダ、メインの料理、パン、アイバルなどのサイドディッシュ、ケーキなど数日前から準備します。

スラバは主に父から息子へ同じ守護聖人を継承します。
父親が生存中の場合、息子は基本的にはスラヴァを行うことは出来ません。
例外として結婚等で独立した息子がスラヴァを希望する場合は、父親のケーキ(1/2)を更に割ったものが渡されます。
5. セルビア正教徒のクリスマスは「1月7日」
セルビア正教会のクリスマスは【1月7日】です。
キリストの生誕を祝うバドゥニャク(badnjak)
クリスマスイブの6日の朝、各家庭の家長は『バドゥニャク(badnjak・後述)』と呼ばれるオーク(ブナ科の木)を山に採りに行きます。
バドゥニャクは、キリストの誕生、豊作や健康を祈るものです。

現在はスーパーや街中で売られているバドゥニャクを購入することが多いです。(12月末からクリスマス・イブまで)

持ち帰ったバドゥニャクは室内に飾る人が多いです。
バドゥニャクの飾りと意味

バドゥニャクは、オークの枝に藁(わら)や コーンなどの穀物とクルミが飾り付けられたものが売られています。


バドゥニャクの飾りの意味
・オーク イエス・キリスト誕生の際、洞窟内を暖めるために燃やされた
・穀物 イエス・キリストが横たわっているわらを牛が食べないように、マリアが牛に投げた穀物
・わら イエス・キリストがわらで生まれたという記憶
・クルミ 世界の神の権威 を象徴
クリスマスイブからクリスマス当日の風習
1.バドゥニャクを燃やす
1月6日のクリスマス・イブ(セルビア語で バドゥニ ダン=Badnji dan)の夕方から庭でバドゥニャクを燃やすという風習があります。
これは “キリストが誕生した際にオークの木を燃やして洞窟内を暖めた” ことの再現です。
また “炎から出る火花が 収穫や実り・幸福を告げる” とも言われています。
近年は教会や自治体で行われています。
2.教会の儀式

イブ(1月6日)の夜からクリスマスにかけて教会に信者が集い、聖歌隊の合唱や司祭よりワインを注がれたパンを分け与えられます。
一般のクリスマスのイメージとは違って厳かな雰囲気です。
クリスマスに行われる運試し
クリスマス当日の1月7日には、教会で金貨入りのパンが配布されます。
これは昔の『家族や友人とパンを分けて誰に金貨が当たるか?』という運試しの風習を再現したものです。
セルビア正教・クリスマス前の禁食【ポスナ】

正教徒はクリスマス前の40日間、ポスナ(posna)と呼ばれる禁食の期間(11/28~1/6)を設けます。
ポスナは”肉体的・精神的な浄化”を目的とします。
肉体的には「肉、卵、チーズ、牛乳などの動物性脂肪を含む食品・アルコール飲料」を食べないという特徴があります。
精神的には「罪深く邪悪な考え、欲望、行動を放棄」することを意味します。
写真はポスナ用の【卵を使わないパスタ】、【肉不使用のサルマ】、【動物油脂を使用しないビスケット】で、POSNAの記載があります。
この期間は肉の代わりに魚がよく売れます。
年末年始の街の様子(ベオグラード中心)
6. セルビア正教会の新年は「1月14日」
新年にあたる【1月14日】は、日本の元旦のようなお祝いムードは一切無く、会社や店は通常通り営業します。
セルビア人は1月1日も新年として祝うため、1日の方がお祝いムードとなります。
7. セルビアのイースター

「イースター」はイエス・キリストの復活を祝う最大のキリスト教の祝日です。
東方正教はグレゴリオ暦を採用しているため【3月22 日~4月25日】の間の3日間 (聖金曜日/聖土曜日/イースター) を祝います。
この3日は毎年変動します。
卵は「生命の再生」の象徴としてイエスの再生を意味し、通常 玉ねぎの皮で赤く着色します。

正教徒はクリスマスと同様にポスナ(禁食)が義務付けられています。
この期間は肉、卵、チーズ、牛乳などの動物性脂肪を含む食品を控えます。
8. セルビア正教徒の葬儀

セルビア正教徒の葬儀と埋葬は墓地で行われます。
正教徒の埋葬は土葬ですが、“火葬も埋葬の自然な形” と考える人が多いため、火葬も採用されています。
(正教会は火葬を歓迎していませんが、特に非難もしていません)
遺灰は墓地に納骨するか持ち帰る、特定の場所に撒かれるなどされます。
死後40日目、または40日前の最初の土曜日に墓地又は教会で追悼式が行われます。
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